【アニメコラム】アニメライターによる2015年夏アニメ中間レビュー

クーラーのない部屋でプラズマテレビとヘッドホンの熱気に耐えながらアニメを見るとすべてが面白くなる瞬間がやってくる。そんな涅槃の境地に達したアニメライターが、折り返しを迎えた2015年夏アニメを中間レビュー!

とにかく官能的な「監獄学園」、アクションと手話が炸裂する「GANGSTA.」、ファンタジーとミステリをあわせ持つ「六花の勇者」、主題歌が病みつきの「下ネタという概念が存在しない退屈な世界」、アイドルオタクを題材にした「ミリオンドール」をラインナップ。夏をより暑くさせる5作品を堪能してほしい!

監獄学園(プリズンスクール)

圧倒的な女性比を誇る私立高校を舞台に、覗きの罪で懲罰棟へ投獄された男子生徒5人の学園生活を描いたスクール・コメディ。看守を務める裏生徒会のセクシーなお仕置きに目が行きがちだが、知力を尽くして脱獄を図るサスペンス描写も見所。思いがけないハプニングにも冷静に対処し、自由のためなら脱糞も辞さない男の覚悟に胸を揺さぶられる。陰謀や裏切りが渦巻くストーリーは、映画をパロディにしたサブタイトルにならえば、脱獄モノの傑作「穴」を思わせる緊張感に満ちている。

監督は「SHIROBAKO」の大ヒットが記憶に新しい水島努。しかしここでは出世作である「『クレヨンしんちゃん』の」と紹介しなければなるまい。ケツだけ歩きをはじめ尻にまつわる数々の演出で魅せた手腕は、臀部に尋常ならざる情熱を注ぐ本作にこそ相応しい。オープニングテーマ「愛のプリズン」で“ぶりぶり”に似た“プリプリ”という歌詞を盛り込んだ大槻ケンヂの慧眼にも驚かされる。監督の尻へのカムバックを心から祝福したい。

GANGSTA.

マフィアが支配する街・エルガストルムで、警護から殺人まであらゆる依頼をこなす便利屋コンビのハードボイルド・アクション。エルガストルムは晴天の日が多いが、汚れ仕事を請け負う便利屋は裏路地を通るため、建物の隙間から見えるわずかな青空が強い印象を残す。アクションシーンでは黄昏種(トワイライツ)と呼ばれる異能力者だけが建物の壁を乗り越え、空の下でバトルを繰り広げていく。狭い路地から解き放たれ、縦横無尽に街を駆けるバトルは爽快の一言に尽きる。

難しい表現に真っ向から取り組んでいるのも特徴だ。便利屋の1人・ニコラスは聴覚を失っているため、彼らは手話で意思疎通を行う。2人の手の動きはていねいに描かれ、アクションさながらの魅力に溢れている。さらに第1話でニコラスが声を荒げて激高するシーンは津田健次郎さんの熱演も相まって圧巻の仕上がりとなった。

六花の勇者

世界を救う力を持つ6人の勇者たちが、魔神の復活を阻止するため約束の地に集う異世界ファンタジー。近年数多いライトノベル原作アニメではあるが、中南米の世界観を採用することで差別化に成功している。地上最強の男を自称する主人公・アドレットが、弓や魔法ではなく秘密道具を駆使して戦うのもポイント。爆薬、まきしび、煙幕、毒などを多彩なアイテムを組み合わせて敵をなぎ倒していく戦闘スタイルは卑劣かつスタイリッシュである。

作中にはミステリ要素が取り入れられており、登場人物の行動から犯人を解き明かす謎解きも面白さの1つ。各キャラクターのアクションはそれぞれが細やかに表現され、画面の情報量の多いことから、一瞬も気の抜けないストーリーが展開されている。

下ネタという概念が存在しない退屈な世界

公序良俗健全育成法によって性的な表現が禁じられた日本で、性の解放を目論む下ネタテロ組織・SOXの活躍を描いたディストピア・コメディ。過激なテーマゆえにオンエアでは自主規制が施されるという逆説的アプローチが興味深い。規制された部分を確認することで、どこまで表現が許されるのかを計るバロメーターとしての役割も担っている。

本編ではセリフのほとんどが規制音で伏せられたシーンさえ存在するものの、バイブという言葉をモーター音で隠すなどの工夫が凝らされていて、内容を容易に推測できる。規制を出し抜いて新たな手法を獲得してきた表現の歴史を思わせる一幕だ。SOXの一員である春画家・早乙女乙女が手塚治虫風のタッチを習得しているのも、表現のために戦ってきた先達へのリスペクトに違いない。

ミリオンドール

アイドルアニメは客席のオタをまったく映さない作品も多いが、本作は逆にオタ側の視点を持ち込んだ異色作。注目は何と言ってもオタがアイドル・鎌倉ひなみにハマる瞬間を描いたシーンだろう。現場派のリュウサンは会社でボロボロになるまで働いたあと、在宅派のすう子は自宅に引きこもっていたとき、ふと見つけた彼女にすべてを捧げようと決意する。2人がアイドルに惹かれたのは、彼女の容姿やパフォーマンスがすぐれていたからではない。彼らにとってアイドルは何の意味も見出せない人生を埋めるための対象なのだ。そしてアイドルという文字をアニメに変えることで、この問題は我々の眼前に迫ってくる。アニメを見続けた先に果たして何が残るのか。その答えを知るためにも作品を追いかけなければならない。

(文/高橋克則)