大人気作品に配信中止やカット修正も出てしまった中国における1月新作アニメ【中国オタクのアニメ事情】

中国オタク事情に関するあれこれを紹介している百元籠羊と申します。
今回は中国の動画サイトで配信されている日本の1月の新作アニメの人気や話題作、それから1月の新作アニメに対して発生した配信中止の混乱や、その後のカット修正したうえでの配信再開の動きなどに関して紹介させていただきます。

1月の目玉作品「ダーリン・イン・ザ・フランキス」、配信中止は解除されたもののカット修正が入ることに

中国ではスタッフのインタビューネタから来ているという「国家隊」(ナショナルチーム)というあだ名でも呼ばれ、中国における絶大な前評判を裏切らないクオリティで大人気となった「ダーリン・イン・ザ・フランキス」ですが2月の初め頃に突然の配信中止となってしまいました。(配信している動画サイトiqiyiによると「不可抗力的な理由」とこのこと)
この話題作の突然の配信中止に関してはさまざまな憶測が飛び交いましたし、
「中国本土では作品がこのまま消えてしまうのではないか」
「配信中止が他の作品へ波及するのではないか」
などといった恐怖もあってか、中国のオタク界隈は一時恐慌状態になってしまいました。

幸いと言っていいのか具体的な説明はないものの配信中止自体は2月中旬に解除され、人気や話題性に対する目立ったダメージもなく、今期屈指の人気作品として盛り上がりは維持されています。
ですが、何事もなく再開とはいかず、結局一部をカットしての配信再開となっているそうで、現在中国の動画サイトで配信されているのは露出度の高いシーンやコクピット内のシーンなどがカットされたバージョンになっているとのことです。

それ以外にも、同時期に別の動画サイト「bilibili」で配信されている「りゅうおうのおしごと!」が、いつの間にか露出度の高いシーンや、主人公が小学生キャラに対して「お嫁さんにしてあげる」と言うシーン、およびそれに関するその後のシーンなどがカットされた「修正版」に入れ替えての配信となってしまったそうです。

中国のオタクな方によれば、中国の動画サイトで配信される日本のアニメに関してはこれまでも作品によっては画面にボカシ的なものを入れたり特定のシーンをカットしたりということはあったそうですが、1月の新作に関して行われている途中からの大幅な修正強化と差し替えというのは珍しいという話です。

それからこちらは規制ではなく契約関係もからんでの話のようですが、bilibiliで「技術的な原因によりライセンス契約における一部の責任要求を履行できなくなっていることから、技術的な問題を解決する期間は、関係する37作品を配信中止処理にする」と発表され配信中止状態となっていた、テレビ東京系を中心とした多数の作品ですが、2月の中旬から順次配信が再開されている模様です。

しかしこちらもそのまま配信再開とはいかなかったようで、
「技術的な理由により配信再開した作品は、しばらくの間有料会員のみが視聴可能」
という形での配信となっているそうです。
こちらに関しても詳しい事情説明はなく、また当面は有料会員限定ということで、日頃は動画サイトに対してかなり肯定的なbilibiliのユーザーの間でも微妙な空気が漂ってしまっているとのことです。

さまざまな層に刺さる「オーバーロード」、萌えから入ってストーリーにハマる「りゅうおうのおしごと!」

次に他の人気や話題を集めている作品についてを。
まず広い層からの安定した支持を受けているのが「オーバーロードII」です。「オーバーロード」は「骨傲天」という、日本のいわゆる「俺TUEEE」的な意味になる中国のスラング「龍傲天」から来ているあだ名が定着するなど、アニメ1期の頃から人気が維持され、第2期も主人公以外を中心としたストーリーが続いたものの、それが世界観の掘り下げや作品の考察、キャラ語りなどの話題になっていたりするそうです。さらに、ところどころできちんと主人公が圧倒的な力を発揮する展開もあり、安心して見ていられる作品になっているのだとか。

中国における「オーバーロード」人気で興味深いのはこの作品をどう受け止めるか、どのジャンルに入れるかというのが人それぞれになっているらしいというところでしょうか。

定番の異世界トリップや俺TUEEE的なカテゴリで考える人もいれば、「ワンパンマン」的な作品という人や「ソードアート・オンライン」的な作品だという人もいますし、さらには「コードギアス」的な作品だという人もいるという話です。
私も思わぬところでオーバーロードが話題になっているのを見かけて驚いたことがありますし、日本の感覚でイメージできる範囲よりも広い範囲にファンがいるように思えますね。

それから放映開始後に大きく人気を伸ばしているのが「りゅうおうのおしごと!」です。
この作品は元々原作が中国のラノベ読みの間で評価が高く、アニメ開始前から固定ファンがついていたのですが、放映開始後に、萌えだけではないストーリーの熱さが評判となり、新規のファンもどんどん獲得している模様です。
またこの作品に関しては、萌えを入り口にして見始めた人間が、いつの間にか萌え以外の部分、熱いストーリーやキャラ描写を評価するようになり、むしろ萌えを過度に強調するのはどうなのかとまで言い出すようになる……といった現象も起きているそうです。

「りゅうおうのおしごと!」は、わかりやすく話題のネタにもなる萌え要素が中国のオタク層が作品を見るきっかけにつながっていますし、その結果、日本の将棋をまったく知らないような中国のオタクの面々から、作品の熱いストーリーを追っかけるファンや、日本の将棋に興味を持つような人も出ているのが面白いところですね。

中国独自のオタク事情が人気に影響する作品も

1月新作の中には中国独自のオタク事情が人気の形に影響を及ぼしている作品も出ていますが、なかでも「ポプテピピック」は、日中のオタク的な環境の違いがハッキリと出る作品となっています。
中国でも、作中に出てくるパロネタへのツッコミやコラ素材としての活用などといった盛り上がりが見て取れますが、それと同時にアニメの柱となっている声優ネタが中国のオタク層の大部分にとってピンと来ない……といったことも頻繁に起こっているようです。

日本の声優を本格的に追いかける際には日本語能力が必要になることなどから、中国の声優ファンはマニア寄りの層になっています。それに加えて現在の中国における日本の声優の人気というのは比較的新しい声優を中心としたものとなっており、日本のお茶の間に流れるアニメの大御所声優に関する思い入れはそれほどでもない……といった事情もあります。
そういった背景も影響してか、「ポプテピピック」は、オタクに刺さるネタに関して日中で共通するものと異なるものが際立つ興味深い作品となっていますね。

それから「衛宮さんちの今日のごはん」も、現地事情が見て取れる作品になっていて、こちらは中国のFateファンの間では「ちょっと意外なFate作品」という風にも受け止められているそうです。
中国では「Fate/Zero」から本格的なFate人気が爆発したことに加えて、アニメ経由でFateシリーズに触れる人がほとんどだったことから、原作ゲームやTYPE-MOONの各種派生作品が意識されることが日本に比べてかなり少なく、原作ゲームの日常パートや日本の同人、二次創作界隈の空気もあまり伝わっていません。

そのため「衛宮さんちの今日のごはん」の雰囲気やキャラの関係を新鮮に感じる人も少なくないそうで「殺し合いではない暖かい雰囲気の日常系のFate」ということ、それに加えて意外にしっかりと日本料理のレシピも見れるという小ネタもあいまって、月1ペースの配信ながらしっかりとした人気を確保している模様です。

それ以外にも「ゆるキャン△」がアウトドアの知識を得られる内容、そして風景描写や音楽などから「見ていて気分のいい日常系」として評価されているそうですし、「デスマーチからはじまる異世界狂想曲」は、日本のファンタジー系で定番過ぎる異世界転生ネタということでさまざまな方向からのツッコミが入るものの、気楽に見れるということで一定の人気や安定した再生数を獲得しているようです。また「斉木楠雄のψ難」が配信されている複数の動画サイトで一時的な配信中止や配信形式の変更といったゴタゴタが発生したものの、コメント弾幕でツッコミを入れながら見るギャグ系の定番作品として堅実な人気を維持している模様です。

1月の新作に関して、中国では今回あげた作品以外にも「当たり」が多く、非常に盛り上がっていますが同時に不穏な動きも出ています。
例によって今回の配信中止や再開後のカット修正がどういった理由によるものなのか、どこまでが自主的なものなのかなどはハッキリしませんが、現在中国で配信されている日本のアニメに関して、現地の動画サイトが内容の修正などによる守りの姿勢になっているところは見受けられます。

中国のオタクな人たちからも
「面白い作品が多いのはうれしいが、アニメの周囲を見ると単純な気持ちではいられない」
といった話が聞こえてきますし、1月のシーズンは中国のオタクな人たちにとっては楽しさと不安が混在するものになっている模様です。

(文/百元籠羊)

(C) ダーリン・イン・ザ・フランキス製作委員会