【スタッフに注目! お宝作品発掘】「機動新世紀ガンダムX」 -「美男高校地球防衛部LOVE!」の高松信司監督によるSFロボット戦記-

スタッフに注目! お宝作品発掘 第3回。

スタッフつながりで見ていくと、アニメはもっとおもしろい!
このコラムでは、アニメライターがスタッフ関連で注目したい過去の良作品を紹介します。

1月から放送中の「美男高校地球防衛部LOVE!」は、イケメンで変身美少女モノを大マジメにやってのけるという、はじけまくったオリジナルTVアニメだ。

制作を統括する高松信司監督は、「銀魂」(2006年・初代監督)、「男子高校生の日常」(2012年)、「イクシオン サーガDT」(2012年)、といったあまたのギャグアニメを世に送り出してきた。現在、得意技はパロディ満載のギャグアニメという印象が強いが、1990年代にはサンライズで、「勇者特急マイトガイン」(1993年)、「勇者警察ジェイデッカー」(1994年)、「黄金勇者ゴルドラン」(1995年)といった看板作品を生み出してきた職人監督でもある。

その中で、高松監督の代表作のひとつとして注目したいのが、「機動新世紀ガンダムX」(1996年)だ。

ピュアでどこかあたたかい、ユニークな「ガンダム」

「機動新世紀ガンダムX」は、いわゆる正史といわれる「宇宙世紀シリーズ」の「ガンダム」ではない。そのため、ガンダムファンからの評価はあまり高くない。放送当時も時間枠が移動になり、話数も当初より短縮されて全39話という不遇の扱いを受けた。

だがこの「機動新世紀ガンダムX」、逆に「ガンダム」シリーズに強い思い入れを持たないアニメ好きには、なかなか楽しめる作品になっている。特に、ストーリーテリングの名手・高松監督のオリジナル作品として見ると興味深い。

「機動新世紀ガンダムX」をひと言でいうと、「ボーイ・ミーツ・ガールのピュアピュアハートウォーミングガンダム」なのである。戦争の悲惨さは描かれるが、主人公の性格や話のタッチから受ける印象に、どこかあたたかいものがあるのだ。

ちなみに、作品自体はギャグアニメでもパロディアニメでもない。念のため。

ボーイ・ミーツ・ガール ~ ひと目惚れから始まる「戦後」の冒険譚

「機動新世紀ガンダムX」は、軍人がいない「ガンダム」、戦争の後の時代を描く「ガンダム」だ。軍人は登場するが、メインキャラクターたちは軍人ではない。バルチャー(禿鷹)と呼ばれるならず者集団や、フリーのモビルスーツ乗りたちだ。

「機動新世紀ガンダムX」の英語タイトルは「After War Gundam X」。「A.W.(アフターウォー)」とは、つまり「戦後」であり、劇中の時代を計る紀年法でもある。物語はA.W.0015年からスタートする。

15年前、地球連邦と宇宙革命軍の間に大きな戦争があった。愚かな力の応酬の結果、いくつものスペースコロニーが地上に落ちる悲劇が起き、世界の人口は100分の1にまで激減した。

主人公の少年ガロード・ランは、戦後に生まれ、両親を失ってひとりで生き抜いてきた、明るくエネルギーにあふれた少年だ。

亡き父親ゆずりの技術屋のセンスを活かして、街を襲ってくる荒くれモビルスーツを機敏に倒しては、機体や部品を売りさばくのを生業とする。ドロボーすれすれの何でも屋だが、ガロードに悲壮感はない。生きていくために必要なことをやってのける、前向きな思考と機転とたくましさを持っていた。

そんなガロードが、とある紳士から依頼を受ける。「バルチャーどもにさらわれた少女を、助け出してほしい」と。陸上艦フリーデンに乗り込んだ彼は、孤独で寡黙な美少女、ティファ・アディールと出会い、ひと目で恋に落ちる。そしてティファが不思議な力を持つためにねらわれていることを知って、彼女を連れて逃げ回り、導かれるようにモビルスーツ・ガンダムXと出会うのだ。

ちょっとスレた生活力のある少年が、神秘的で孤独な少女と偶然出会って、一瞬で心が通じ合う。この始まり方は、「天空の城ラピュタ」などに通じる普遍的な冒険譚の味わいだ。

劇中の予告の表現を借りるが、「不屈の純情」という言葉が、ガロードを表すのにはふさわしい。ガロードはティファをひたむきに守り、純な思いを捧げつづける。感情の出し方を知らなかったティファも、ガロードの気持ちにおずおずと応え、やがて恋という感情を知っていく。

次第に心が通じあい成長を遂げながら、共に過酷な世界を生きていこうとする2人の姿は、なかなかに胸キュンものだ。

一途な少年・ガロードの魅力のひとつが声だ。演じているのは、「名探偵コナン」の小嶋元太役、高木刑事役などで知られる高木渉さん。少年役としては大人っぽい響きを持つ声だが、これがガロードの“男の子らしさ”を強調していてイイのだ。明るく自由気ままで、恋に関しては一直線。少年の純情がよく出ていて、ティファとのやりとりはとても微笑ましい。

戦争が残した傷跡・ニュータイプはどこへ向かうのか

予知能力やテレパシー、高度な認識力など、新たな力を持った人類を指す「ニュータイプ」も、「機動新世紀ガンダムX」のキーワードのひとつだ。15年前の大戦でニュータイプは、戦争の道具として戦場に駆り出された。モビルスーツ・ガンダムX(型式番号:GX-9900)、ガンダムDX(型式番号:GX-9901-DX)は、ニュータイプでなくては起動できないモビルスーツなのだ。

ティファは戦後に誕生した、生まれついてのニュータイプだ。また、ガロードとティファの家となる陸上艦フリーデン艦長のジャミル・ニートは、戦時の英雄であり、かつての力を失ったニュータイプだ。ふたりがどのように生きて、どんな未来を望むかが、物語のテーマに直結している。

ジャミルは自分と同じ境遇の傷ついたニュータイプを保護したいと考え、探している。フリーデンの旅が進むにつれて、新たな真実が明らかになっていく。パズルのピースが収まるように、戦後15年の世界に亡霊のようにつきまとう、たくさんの人たちの憎しみや深い心の傷が浮かびあがってくる。新たな野望が新たな秩序を求めて動き出し、そこに新たな火種が起きる。また戦争が始まる……!

この現実を突き抜けようとするのが、まっすぐでブレのないガロードの思いだ。ガロードは、ニュータイプであることとは関係なくティファを好きになったし、彼女の心身をどこまでも守ろうとする。

ガロードのがむしゃらさは、大きな罪とトラウマを背負ったジャミルにも影響を与え、救っていく。そしてジャミルは、人として大切なことを自らガロードに教える。結果としてガロードは成長し、見る世界をどんどん広げていくことになるのだ。「機動新世紀ガンダムX」は、ガロードの成長物語としてブレがない。

放送期間が短縮されたことで、25話以降の後半は、やや駆け足ぎみになっているが、各エピソードがコンパクトになっているだけで、物語の結末まではしっかりと描かれている。そこは安心して見てもらっていい。

エンディングに重ねて流される次回予告のナレーションは、結構見どころを惜しみなくネタバレしている。中には、表現がそのものズバリすぎてちょっとおもしろく感じるところもある。このセンスは、そう、現在高松監督が得意としている、番組提供画面や予告で出る縦書きのあおりあらすじに通じる。そんなところを楽しみに見てみるのもいいだろう。

高松監督はこの作品で、「ガンダムを考えるガンダム」を目指したという。またその結果、劇中の「15年前の大戦」や、ティファたち「ニュータイプ」が、この作品までの「ガンダム」という作品を象徴しているとする見方もある。そう考えると、メタフィクション的な寓意を、物語に見いだすことができるだろう。

でも、そういう意味付けを取っぱらって楽しんでも、何の問題もないのが「機動新世紀ガンダムX」だ。劇中のガロードが叫ぶように、過去の戦争がどうの、その因縁がどうのという感情は、「戦後の子どもたち」に押しつけられるべきものではない。前向きで過去にとらわれない子どもたちが未来を作っていくように、過去のシリーズと切り離して、この冒険譚を楽しめばいいだろう。

(文・やまゆー)