アニメファンの飲み会というのは得てして、大喜利というか連想ゲーム的なものになりがちだ。「○○には××なシーンが出てくるよな」と誰かがひと言いえば、ほかの誰かが「××なシーンといえば△△を忘れちゃいけない」と返してくる。アニメとアニメはそんなふうに見えない糸で繋がれている。キーワードを手がかりに、「見るべきアニメ」をたどっていこう。
この原稿が掲載されるのはちょうどクリスマス前後。ということで、今回はクリスマスをキーワードにして、いつも通り4つの作品を選んでみた。
とはいえ、TVアニメには結構な頻度でクリスマスにちなんだエピソードが登場している。「銀魂」の第200話「サンタクロースの赤は血の色」にせよ、「とらドラ!」の第19話「聖夜祭」にせよ、「ピンポン」の第6話「おまえ誰より卓球好きじゃんよ!!」にせよ、これだけあるとかえって選びづらい。というわけで今回はTVシリーズ以外から選ぶことにした。
まず1本目は「東京ゴッドファーザーズ」。
この映画の主人公は3人のホームレス。自称・元競輪選手のギンちゃん、元ドラァグ・クイーンのハナちゃん、そして家出少女のミユキというメンバーだ。物語はこの3人がクリスマスの夜に赤ちゃんを拾うところから始まる。赤ちゃんに「清子」と名付け、自分で育てると言い張るハナちゃんを説得し、3人は清子の実の親探しに出かけることになる。
3人はわずかな手がかりをたどりながら、実の親を探していくことになるのだが、そこで起きるさまざまな偶然が絶妙に連鎖して、時に皮肉っぽく、時にやさしく映画を盛り上げていく。
「クリスマスからお正月にかけて」の1週間ほどの期間は、宗教的にもごちゃまぜでお祭り気分と厳かな気持ちが共存した特別な時間。そんな時期だからこそ起こりそうな、“奇跡”の物語が本作なのである。
本作が下敷にした映画のひとつに映画「三人の名付親」がある。これは、赤ん坊を託された3人のならず者が荒野を旅し、クリスマスの街に到着する物語だ。西部劇ではあるが、同時に聖書劇としても作られている作品で、クリスマスというのが、キリスト教徒にとって特別な時期であることがよくわかる。そして、この「特別感」は西洋文明の一部として、キリスト教徒でない日本人にも当たり前のものとして受け止められているわけだ。
いっぽう、こちらに登場するクリスマスパーティーは「楽しい日常」の象徴だ。映画は「涼宮ハルヒの消失」。「涼宮ハルヒの憂鬱」の劇場版である。
12月17日、主人公のキョンたちSOS団のメンバーは、クリスマスイブに開催するパーティーの準備をしていた。ところが翌18日に登校すると、昨日まで元気だったクラスメイトが風邪をひいていたり、どうも様子が違う。実は、キョンが昨日までいたのとは別の世界になっていたのだ。一番大きな違いは、SOS団の団長にして、トラブルメーカーの涼宮ハルヒがこの学校にいないことだった。
19日、元の世界にいたSOS団団員の長門からのメッセージを受け取ったキョンは、ハルヒがいなくなった世界を元に戻そうと行動を始める……。
ハルヒに巻き込まれる形で、ある意味不可避にSOS団の活動を行っているキョン。そんなキョンに改めて「ハルヒがいる世界」と「ハルヒがいない世界」を示して、前者を主体的に選択させる。そうしてキョンが主体的に、元の世界を肯定する様子を描くのが本作の主眼のひとつだ(もうひとつは、どうしてこんな世界の分岐が起きたか、その原因になったキャラクターの内面)。
やがてくるクリスマスパーティーは、そんなキョンが選び取った日常の象徴なのだ。
いっぽう、OVA「機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争」は、宇宙世紀0079年のクリスマスが出てくる。
主人公・アルは中立サイド「サイド6」の小学生。アルが偶然出会ったジオン兵・バーニィは、サイド6で密かにテストが行われている新型ガンダムの奪取、破壊が任務だった。
TV「機動戦士ガンダム」のインサイドストーリーなので、多くの視聴者は作品の背景で展開する、ジオン公国と地球連邦の戦争が12月31日には終わることを知っている。そうしてキャラクターたちは、すでに決まったタイムスケジュールを知ることなく、登場人物たちは現実と格闘していく。それは、現実の戦争を題材にとったさまざまな戦争映画と似たテイストを生み出している。
作戦に失敗し生き残ってしまったバーニィ。
彼は、壊れたまま放置されたザクを修理してガンダムに挑もうとする。この時に、少ない火器を補うために、サンタの形をしたアドバルーンを手に入れ、それをおとりにつかう作戦を展開する。そして、ザクと新型ガンダムの戦闘は25日のクリスマス当日に行われる――。
海外に目を転じれば、当然ながら日本よりもはるかに多く、クリスマスを題材にしたアニメ映画が存在する。クリスマスに憧れるハロウィン・タウンの住人を主人公にしたファンタジー「ナイトメアー・ビフォア・クリスマス」はその筆頭だろう。
そんな作品の中から今回おすすめしたいのは「スノーマン」。絵本を原作にした26分の短い作品だ。ある少年が雪だるまを作る。真夜中過ぎになって動き出した雪だるまは、少年と一緒に遊び、少年を雪だるまの国へと案内する。そして少年はサンタに出会う。
セリフはひとつもないが、子供なら誰でも思うような夢が魅力的に描かれている。「となりのトトロ」に、メイとサツキの姉妹が、夜中に大木が育っていく様子をトトロと見るシーンがあるが、あのシーンが好きな人ならきっと感動できる、ストレートなクリスマスのファンタジーだ。
(文/藤津亮太)
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