ホビー業界インサイド第26回:バンダイ ホビー事業部に聞いた、「初音ミクのプラモデル」が発売されるまでの表の事情、裏の事情

アニメに登場するキャラクターをプラモデルキットとして立体化するバンダイの「フィギュアライズバスト」シリーズが、今月8月26日に発売される「Figure-riseBust 初音ミク」で23作目を迎える。
第1弾「Figure-riseBust キラ・ヤマト」が発売されたのが2016年の6月。ワンパーツの中に複数の樹脂を流して、アニメ特有の瞳を成形色のみで再現する“レイヤードインジェクション”が大きな話題となった本シリーズ。最新作「初音ミク」では、顔面と瞳が一体成形されるなど、さらなる進歩が見られるらしい。バンダイ ホビー事業部で「フィギュアライズバスト」シリーズの企画を担当するニューホビーチームの三宅のぞみさんに、詳しい話をうかがった。

すべてはインサート成形の応用技術から始まった

── フィギュアライズバストは大きめのフィギュアですけど、なぜか上半身だけですよね? なぜ、このサイズになったのでしょうか?

三宅 まず、バンダイのプラモデルを生産している静岡ホビーセンターで、異素材をひとつの金型に流しこむ“インサート成形”という技術があります。ガンプラのRG(リアルグレード)シリーズで、モビルスーツの関節などに使われている技術ですね。そのインサート成形の応用で、複数のカラーをひとつの金型に流してキャラクターの瞳を作れるという提案が、ホビーセンターからありました。ホビー事業部として、ぜひとも製品に生かそうという方針が決まりまして、ワンパーツで瞳の色分けを再現した“レイヤードインジェクション”が生まれました。その最先端の技術を顔に集約させたかったのが、このサイズになった理由のひとつです。
もうひとつ、シリーズの当初は「モビルスーツのプラモデルと並べて飾れるフィギュア」としてスタートしましたので、全身像だとスケール感が合いません。胸像にすれば、違和感なくモビルスーツと展示台を組み合わせて飾れますので、それで上半身だけになりました。

── レイヤードインジェクションは、この大きさでないと成形できないのでしょうか?

三宅 そうですね、新しいアイテムを出すごとに限界に挑戦してはいます。今年の2月から「ラブライブ!サンシャイン!!」をラインアップしまして、まつげの先端はこれまでより細くなっていますし、キャラクターによっては、ホクロまで成形色で再現してあります。

── シリーズを始めて1年ちょっと経過しましたが、お客さんの反応はいかがですか?

三宅 初期のころは、ガンプラを作っている合間の箸休め、お漬物をつまむような楽しみ方をされていたと思います。大きな転機は、「アクティヴレイド -機動強襲室第八係-」のLikoを出したとき(昨年9月)です。Likoもメカニックと並べて飾る仕様ではあったのですが、髪の毛はぎりぎりまで細くして、瞳にも初めてクリアーの成形色を使いました。すると、「こんな繊細な女の子のプラモデルが作れるのか」と、Likoというキャラクターを知らない人からも反響がありました。「ガンダムビルドファイターズトライ」のホシノ・フミナでは服を2種付属させて、だんだん「女の子をどう魅力的に再現するか」にこだわり始めました。「ラブライブ!」にはメカは関係ありませんので、その代わりに9体を集めて並べたとき、展示台が合体するよう工夫しました。

── 髪の毛の再現も凝っていますよね。「マクロスΔ(デルタ)」のフレイア・ヴィオンでは、2色の髪の毛パーツを組み合わせるようになっていて、驚きました。

三宅 髪の毛は、実は悩みどころです。パーツ分割には、試行錯誤してきました。「機動戦士ガンダムSEED」のラクス・クラインのとき、思い切って表裏でパーツを合わせるよう、単純化してみました。その研究成果が、今回の初音ミクにも生かされています。

── ミクの髪の毛は、葉っぱのように薄く成形されているんですね。

三宅 パーツを前後に組むのではなく、付け根以外は1枚のパーツだけでボリュームのある髪を表現しています。躍動感を出すため、髪は2回ほど作りなおしてもらいました。