【懐かしアニメ回顧録第25回】物語の深層をすくいあげる「十兵衛ちゃん -ラブリー眼帯の秘密-」の「対決の構図」

「甲鉄城のカバネリ」総集編が、今月12月31日より劇場上映される。その「カバネリ」監督の荒木哲郎氏が、制作進行としてアニメ業界でのキャリアをスタートさせ、最初にかかわった作品がテレビアニメ「十兵衛ちゃん -ラブリー眼帯の秘密-」(1999年)であった。総監督は大地丙太郎氏、監督は桜井弘明氏である。

コメディタッチの変身美少女アニメには違いないが……

中学生の菜ノ花自由は、引っ越してきたばかりの田舎町で、小田豪鯉之助という侍と出会う。鯉之助は、柳生十兵衛の最後の弟子であり、師匠の遺言にしたがって、2代目十兵衛の資格をもった者を300年間も探し続けてきたのだ。
自由は、鯉之助から押しつけられたハート型の「ラブリー眼帯」を装着することで、セクシーな女剣士に変身する。変身した自由は、柳生十兵衛の剣の腕をひきつぎ、宿敵・竜乗寺家から送りこまれる刺客を次々と倒していく。
だが、シリアスなアクション物ではない。大地丙太郎氏と桜井弘明氏は、前年、「セクシーコマンドー外伝 すごいよ!!マサルさん」でもコンビを組んでおり、シュールなギャグを得意とする。竜乗寺家の刺客や、自由にまとわりつくクラスメイトは、個性のきわだったコメディリリーフばかりで、作品の8~9割はギャグシーンといってもいい。

にも関わらず、「十兵衛ちゃん」の背景には、柳生十兵衛と彼にうらみを抱く竜乗寺家との対立、強烈なコンフリクトが横たわっている。明るいギャグアニメでありつつ、シリアスな剣豪物の要素を失わないために、いかなる工夫が試みられているのだろう? 構図から読みといてみたい。

「椿三十郎」でおなじみとなった、対決の構図

「十兵衛ちゃん」第1話の冒頭は、300年前、柳生十兵衛が最後の敵、竜乗寺醍醐を倒すシーンから始まる。夜の林の中、十兵衛と醍醐が向き合っている。画面はフルショットで、左に十兵衛、右に醍醐が立っている。シンメトリーの構図だ。
「いかにも時代劇らしい対決の構図だ」と、誰もが思うことだろう。「椿三十郎」のラスト、三船敏郎の演じる三十郎と、仲代達矢が演じる半兵衛の対決シーンが、まさにこの構図だった。
十兵衛と醍醐の対決シーンは、典型的な時代劇の構図を援用することで、「柳生十兵衛と竜乗寺家の対立」を鮮烈に印象づける。以降、「画面左に十兵衛、画面右に竜乗寺」の構図は、「十兵衛ちゃん」で何度も繰りかえされることになる。

第1話でいうと、初登校の朝、竹やぶで道に迷った自由と、先輩の竜乗寺四郎との出会いのシーンが、まさしく「画面左に十兵衛、画面右に竜乗寺」である。
自由は、まだ2代目十兵衛として目覚めてはいないし、四郎は彼女にひと目ぼれしてしまう。ほのぼのとしたシーンのはずなのだが、この構図は、彼らの行く末を暗示している。自由はラブリー眼帯の力によって2代目十兵衛に変身するし、四郎は十兵衛に恨みをいだく竜乗寺の人間だ。シリーズ後半で四郎は、醍醐の亡霊に体をのっとられ、自由を襲う。
第1話での2人の出会いのシーンは、会話だけ聞いていると、なんの緊張感もない。しかし、冒頭の十兵衛と醍醐の対決シーンと構図を共有することで、今後の展開を「絵」で暗示している。

第3話でも、自由と四郎は竹やぶで向かい合う。自由は竜乗寺家の刺客に、次々と決闘を申し込まれていることを四郎に相談し、四郎は、想いを寄せる自由こそが2代目柳生十兵衛なのではないかと疑っている。第1話よりは緊張感が増しているものの、2人は対立しているわけではない……が、「画面左に十兵衛、画面右に竜乗寺」であることには変わりがない。前述したように、四郎は竜乗寺醍醐の霊に体をのっとられ、やがて自由と戦う運命にあるからだ(最終話の対決シーンは、もちろん「画面左に十兵衛、画面右に竜乗寺」だ)。
「十兵衛ちゃん」のほとんどのシーンは、キャラクターのアップやデフォルメを多用し、コミカルで賑やかな印象をあたえる。しかし、「画面左に十兵衛、画面右に竜乗寺」の構図を随所に挿入することで、物語の根底にあるコンフリクトを執拗に、何度となく提示し続ける。

物語を推し進めるのが、セリフばかりとは限らない。もの言わぬ「構図」こそが、言葉にできない物語の深層を浮かび上がらせることもある。

(文/廣田恵介)

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(C) 1999 大地丙太郎・マッドハウス/バンダイビジュアル