新作テレビアニメの話題作を紹介するこのコーナー。今回は、「good!アフタヌーン」連載のグルメマンガが原作の「甘々と稲妻」、偉人伝を原典とした「タイムトラベル少女~マリ・ワカと8人の科学者たち~」、イケメンアイドル10人の輝きを描く「B-PROJECT~鼓動*アンビシャス~」、国民的アニメの新シリーズ「クレヨンしんちゃん外伝 エイリアン vs. しんのすけ」、台湾の伝統的な人形劇「Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀」の5作品をラインアップ。2016年夏アニメのこれまでを振り返って、クライマックスに備えてほしい。
甘々と稲妻
妻を亡くした高校教師・犬塚公平と食べることが大好きな娘・つむぎが、教え子の女子高生・飯田小鳥と料理作りにチャレンジする日常系グルメアニメ。父と娘が亡くなった母に言及するシーンはほぼないものの、2人暮らしには大きすぎる冷蔵庫やダブルベッド、娘を幼稚園に送るファミリーカーから、かつてそこにいた彼女の不在が浮かび上がってくる。
教師と生徒という立場からか、学校では互いに背を向けて会話をしている公平と小鳥。そんな2人が料理を作るときだけは、同じ方向を見て食材に向き合っているのも印象的だ。ごはんを作って一緒に食べる特別な時間を切り取ったひとときに癒やされていく。
タイムトラベル少女~マリ・ワカと8人の科学者たち~
中学生の早瀬真理が父の研究所でタイムスリップに巻き込まれたことからはじまるサイエンス・アドベンチャー。過去に飛ばされた彼女が出会うのは、静電気の研究で知られるウィリアム・ギルバート、雷が電気だと証明したベンジャミン・フランクリン、電池を生み出したアレキサンドロ・ボルタなど、電気の発明・発見に尽力した科学者たち。彼らが残した研究成果と、当時の文化を楽しみながら学べる一作だ。
第4話では失踪していた真理の父・永司が登場。スタンガンを片手に「レクトリックパンチ!」と叫んでオーストリア兵をなぎ倒し、ボルタの命を救うという大立ち回りを演じた。「これもあなたの発明の成果ですよ」とスタンガンを見せるシーンは、科学者たちの研究が私たちの生活と地続きであることを気付かせてくれる名場面である。研究所の装置がどこかロボットアニメ風なのもポイント。やはり電気をテーマにした作品だからだろうか。
B-PROJECT~鼓動*アンビシャス~
T.M.Revolutionこと西川貴教さんが総合プロデュース、MAGES.の志倉千代丸さんが企画・原作を手がけるバーチャルアイドルプロジェクトをアニメ化。3つのアイドルグループで構成されたユニット・B-PROJECTの活躍と、新人A&R・澄空つばさの奮闘を描く。B-PROJECTのイケメンたちがキラキラと輝くいっぽうで、レコード会社の都合で番組出演を反故(ほご)にされたり、グラビア撮影でネコ耳コスプレを強制させられたりと、業界のシビアな側面にも焦点を当てている。
野外ライブフェス回には先輩アーティスト・西山貴教が、あの「HOT LIMIT」のスーツを着て登場。18年の時を経た今でも先鋭的な衣裳を見せつけた。さらに本編でタイアップした「お星さまカレー」が、グッズとして本当に販売されるなど遊び心もユニーク。B-PROJECTの今後に目が離せなくなる。
クレヨンしんちゃん外伝 エイリアン vs. しんのすけ
テレビアニメ25周年を迎えた「クレヨンしんちゃん」が配信限定のスピンオフ作品になって登場。監督は「SHIN-MEN」でコンテ・演出・作監を手がけた三原三千夫さん、脚本はホラーや不条理な展開に定評のあるうえのきみこさん、キャラクターデザインは劇場版で重要パートを多数手がけた末吉裕一郎さんが担当。これまでも尖ったエピソードを送り出してきたメンバーが、シリーズ初のネットドラマでSFスリラーに挑む。
物語は野原一家が見知らぬ宇宙船の中で目覚める場面からスタート。映画「エイリアン」などの密室劇を思わせるシチュエーションで、居合わせたほかの乗客と心理ドラマを繰り広げる。船内に張り巡らされたパイプは不気味な世界観を醸しだすだけでなく、縦横無尽なアクションにもひと役買っており、これぞ「クレしん」と感じる魅力が詰め込まれた。エンディングテーマが名曲「オラはにんきもの」のアレンジバージョンだったり、唐突に雛形あきこネタが挟まったりと、往年のファンをニヤリとさせる小ネタもうれしい。
Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀
「魔法少女まどか☆マギカ」シリーズの虚淵玄が、台湾で親しまれている布袋(ほてい)劇とタッグを組んだ武侠ファンタジー人形劇。豪華絢爛な衣裳やケレン味たっぷりのセリフ回しにも惹かれるが、見どころは何と言ってもアクションだろう。剣を交えると人形から血が吹き出し、四肢が千切れ、首は天高く飛んでいく。さらに息絶えると人形が爆発。そんな驚きのシーンの連続に熱狂すること請け合いだ。雨や風、土埃に稲妻といったエフェクトも激しいバトルを盛り上げていく。
またアニメを見慣れている身からすると、人形は近景でも遠景でも被写体が崩れないという当たり前の事実にも驚かされてしまう。マテリアルの力強さが感じられる一作。
(文/高橋克則)