「今見ても、やっぱりいいわー!」
「なんでそんなに女性に受けたの?」
おもしろいものには理由(ワケ)がある! 女性アニメファンの心をつかんでヒットした懐かしの作品を、女性アニメライターが振り返ります。
第4回は、放送から17年目を迎え、シリーズ新作の「デジモンアドベンチャー tri.」が第3章まで公開されている「デジモンアドベンチャー」(1999年放送)です。
8月1日は、ファンのあいだで「デジモンの日」といわれて親しまれています。劇中で八神太一たち「選ばれし子どもたち」がデジタルワールドに旅立ったのが、8月1日のサマーキャンプからだったからです。思い出の記念日を前に、懐かしさにひたってみませんか?
等身大の子どもたちと、予測不可能な「漂流記」に引き込まれる!
「デジモンアドベンチャー」が、15周年を迎えて続編が制作されるほどファンに愛されている理由のひとつは、誰もが劇中の子どもたちのどこかに、自分を重ねたからではないでしょうか。
メインキャラクターは、架空の世界ではなく、現代の日本に生きている小学生たち。そして、親・兄弟姉妹や、自分の性格のことで、悩んだり立ち止まったりしています。
そんな子どもたちに、小さくてかわいいデジモンがパートナーとして寄り添い、力づけ、ともに戦ってくれる。自分がひとつ成長すれば、デジモンたちも進化して強くなり、やがて巨大で頼もしい姿になる。自分を乗せて大地を駆けたり、空を飛んだり、海を渡ったりしてくれる!
そして子どもたち同士も、未熟さからぶつかったり悩んだりしながら、少しずつ自分の弱さを受け入れ、自分を好きになり、お互いを理解していきます。そこには癒しと許しがあります。
いわば「デジモンアドベンチャー」は、女子が大好きな「関係性」のドラマの塊。リアル子どもの視聴者はもちろん、かつて子どもだった大きいお姉さんたちの心も、「デジモンアドベンチャー」はぐぐぐっとつかんだのです。
モンスターが登場するゲーム原作をアニメ化したテレビシリーズとしては、1997年4月にスタートした「ポケットモンスター」がありました。バンダイの携帯育成ゲーム「デジタルモンスター」から生まれた「デジモンアドベンチャー」は、先行するライバル作品とは異なる「おもしろさ」を追求したはずです。その結果……。
まず、子どもたちが主体の冒険ものになりました。物語の主軸は「異世界漂流記」。デジモンたちと次々に出会って戦って……という各話のパターンはもちろんありますが、生きて元の世界に戻れるかどうかわからない漂流ものにすることによって、緊迫感のある物語になりました。
次に、モンスターと子どもは1対1のパートナーとなりました。これにより、モンスターと子どもとの間に強い絆とドラマが生まれることに。
そして、子どもたちにはそれぞれに、悩みや屈折の設定が細かく施されました。当初7人、後半では8人になる「選ばれし子どもたち」は、いろんな経験をしながら成長しつつ、旅の状況によって、さまざまな組み合わせのドラマが描かれることになりました。
第1話で、夏休みのサマーキャンプから、八神太一たち7人の子どもたちは、空から降ってきたデジヴァイスを手にして、突然異次元のデジタルワールドに飛ばされてしまいます。そこで出会ったのが、コロモンたち7体のデジモンたちでした。
この世界がデジタルワールドだということは、あとでわかる話。太一たちは、わけのわからない見慣れない世界で、巨大なデジモンたちに襲われながら、元の世界に戻るために子どもたちだけで旅をすることになります。
「シャワーを浴びたい」「ベッドで眠りたい」「疲れた、もうイヤ」という、現代っ子たちの衣食住の悩みを描写することによって、小学生のサバイバルの大変さが、説得力を持って描写されましたっけ。
弱音も吐ける最高の理解者。デジモンは理想のパートナー
デジモンと子どもたちは、1対1のパートナーの関係にあります。お互いにかけがえのない存在。ずっと以前から、お互い定められた運命の存在なのです。
とはいえ、ある日突然デジタルワールドで初めて顔を合わせたもの同士。パートナーデジモンは大抵がいい子たちですが、ちゃんと絆が育つまでには、いろんなドラマがありました。
大まかにいうと、子どもとパートナーデジモンの関係は2種類あります。子どもとデジモンが似たもの同士の場合と、タイプが違う場合です。
似たもの同士の場合は、兄弟や姉妹のようで、実に微笑ましいものです。どんなときでもお互いを励まし合う分身のような関係です。
いつでも前向きな八神太一とアグモンは、アグモンがやんちゃな弟のよう。対照的に石田ヤマトとガブモンは、思慮深くちょっとナイーブなふたりです。太刀川ミミとパルモンは、おしゃれで楽天的な女の子同士。高石タケルとパタモンは、どちらも無邪気で天真爛漫なちびっ子同士です。
いっぽう、タイプが違うコンビは味があります。最初はうまくいかないこともありますが、お互いの足りないところを補完しあって、絆を育てるさまが感動的です。
しっかりものの武之内空は、甘えん坊のピヨモンのおかげで、素直で愛情深い自分に気づくことができます。人と打ち解けることが苦手な泉光子郎と、ムードメーカーのテントモンは、研究熱心な名コンビ。生真面目で誠実な城戸丈は、アバウトなゴマモンにからかわれつつ変わっていきます。神秘的で幼い八神ヒカリとクールなお姉さんのテイルモンは、再会自体がドラマチックでした。
改めて見直すと、デジモンたちの献身的なパートナーシップに心を打たれます。どんなときも側にいて、自分の味方であってほしい。時には迷いや弱音を受け止めてほしい。ケンカすることがあっても、また仲直りして、前へ進む自分を応援してほしい。そんな気持ちを満たしてくれる、理想の分身といえる存在。それがパートナーデジモンなのです。
数々の名ゼリフがありますが、自分を変えるために仲間の太一と戦うと心を決めたヤマトに、ガブモンが言ったこのセリフが象徴的です。
「きっとヤマトにはヤマトにしかできないことがあるはずだよ。それを2人で見つけようよ。そのために必要なら、俺はヤマトのために戦うよ。たとえ皆を敵にまわしても、オレはヤマトと一緒だよ」(44話)
状況が厳しいけれど、もがきながら前へ進みたいとき、こんなパートナーに支えられたら素敵ですよね!
8人の子どもたち同士の関係性のドラマにキュン!
選ばれし子どもたち同士の関係性のドラマも、大きな見どころです。いや、キャラクターにハマった人たちなら、こちらのほうが本命かもしれません。
リーダー格の八神太一とクールな石田ヤマトは、戦いにおけるツートップ的な存在ですが、ときどき意見が分かれ、ぶつかりあうことがあります。ヤマトが弟のタケルを心配しすぎなのもひとつの要因でしたが、太一の妹のヒカリが仲間に加わってからは、太一も人のことを言えなくなりました。友であり、よきライバルでもある2人です。
その2人を理解し、見守っているのが、人の気持ちがよくわかる空。同じサッカー部の太一の良さも欠点も熟知した、よき理解者です。空は3年後に「デジモンアドベンチャー02」で、ヤマトに想いを寄せることになりますが、無印では、幼なじみの太一との関係がより濃く描かれています。
サッカー部といえば、太一と光子郎もサッカー部の先輩と後輩コンビです。人見知りの光子郎は当初、顔見知りの太一と話すことが多かったですね。リーダー格の太一に対して、探究心が強く冷静な光子郎は、分析が得意で、まるで参謀のよう。いろんなシーンで、光子郎のパソコンが活躍してくれました。
ヤマトとタケルは、姓の異なる兄弟です。これは、両親が離婚して、父母のもとに兄弟が別々に引き取られたため。この事情もあって、ヤマトは小さな弟タケルを過剰に心配しがちです。しかし、タケルは意外としっかりしていて、ひとりで危難を乗り越え、かえってお兄ちゃんを落ち込ませることもありました。
明るくてわがまま、マイペースな太刀川ミミは、シリーズ冒頭では、文句を言ってばかり。また、危機対応に弱いマジメな丈も、一番年上なのにひとりで焦ることが多く、頼りない印象でした。でもだからこそ、後半、服の汚れよりもデジモンたちを心配するようになったミミや、仲間をしっかり支えられるようになった丈の姿に、見るほうも感慨深い思いがありました。
シリーズ最終話の54話で、最後の決戦を終えた子どもたちを待っていたのは、パートナーデジモンとの別れでした。8人はそれぞれに、パートナーと最後の時間を過ごし、笑顔と涙で別れます。
エピローグにたっぷり時間をかけたことが、このシリーズのテーマをよく表しているといっていいでしょう。また、このラストの感動が、その後のシリーズ人気を支え、16年後の新作につながっているといっても過言ではありません。
リアルタイムで見たファンにとって、「デジモンアドベンチャー」を見た1999年~2000年は、自分もデジモンと一緒にデジタルワールドを漂流し、旅した1年間でした。
「デジモンアドベンチャー tri.」を見て、無印が懐かしくなったら、改めて見直して、またあの日々に戻ってみるのもいいでしょう。
(文・やまゆー)