【アニメコラム】アニメライターが選ぶ、2016年春アニメ総括レビュー! 「ばくおん!!」「12歳。~ちっちゃなムネのトキメキ~」など、注目の5作品を紹介!!

2016年春スタートの作品をアニメライターが総括レビュー。女子高生がオートバイに青春をかける「ばくおん!!」、新米魔女の少し不思議な日常を描いた「ふらいんぐうぃっち」、「ちゃお」連載の胸キュン少女マンガで秋に第2期が控えている「12歳。~ちっちゃなムネのトキメキ~」、巫女としゃべるクマの田舎コメディ「くまみこ」、MMORPG原作のファンタジー「鬼斬」の5作品をピックアップ。

ばくおん!!

第12話「もしものせかい!!」で主人公・佐倉羽音はオートバイのない世界に迷い込む。そこではバイク部のメンバーたちは自転車に乗っており、羽音が語るオートバイという“架空”の乗り物について合理的でないと批判する。快適に移動するなら自動車で十分で、運転には常に危険がつきまとい、エンジンで動くためエコや健康とも無縁である。オートバイなんてないほうが世の中うまく回っているように思えてしまう。

バイクに投げかけられた言葉がなぜか胸に突き刺さるのは、アニメもまた合理的ではない表現だからだろう。絵を動かすのには膨大な労力を必要とし、大量の紙を消費するため環境にはやさしくなく、視聴者も制作者も何だか不健康そうに見える。だがそれの何が悪いって言うんだ。そんな理屈では説明できない魅力に我々は惹かれているのだ。たったひとり取り残された羽音は、オートバイのない世界で口バイクを披露する。彼女がバイクに乗るキッカケにもなった叫びには、「ばくおん!!」と呼ぶにふさわしい音色が備わっている。

ふらいんぐうぃっち

15歳になった女子高校生の魔女・木幡真琴が、青森県に住む親戚の家で気ままな日々を過ごす日常ファンタジー。飛ぶ、歩く、走る、触るといった細やかな動作を通じて、キャラクターや季節感を描くていねいな芝居が印象深い。OPアニメでは歩くシルエットだけで登場人物を描き分け、第1話「6年振りの不思議」では解け残った雪を触って手が沈み込む様子も表現している。

第11話「くじら、空をとぶ」ではホットケーキがふくらんでいくのを30秒にわたって映す場面もあり、現在進行形の出来事を逃さないことで、ゆるやかな時間の流れを生み出していった。また劇中と現実の季節がシンクロしているのも1クールアニメとしては珍しい。春から夏にかけての移り変わりが心地よい一作。

12歳。~ちっちゃなムネのトキメキ~

深夜アニメでキスといえば1クールないし2クールを経たうえで到達するグランドフィナーレだが、それを第1話のAパートで成し遂げたのが小学6年生の恋模様を描いた「12歳。」だ。女子小学生の視線は残酷で、クラスのイケメンたちがきらびやかなのに対し、彼氏候補と見なされていない男子は髪にハイライトがないどころか瞳さえ描かれない始末。「これはあんまりすぎるよ!」と、ちゃおっ娘への宣戦布告を決意したが、ふと鏡を覗き込むと、そこには髪にキューティクルがなく目に精気が宿っていない男の姿が映っていた。あの描写はデフォルメではなく写実表現だったのだ。

我々にとって未知のフロンティア=キスに達した主人公・綾瀬花日は、第3話でダブルデート、第5話で二股疑惑と、第8話ではアニメオリジナルのプールデートと、着実にステップアップを積み重ねる。どこか焦燥感すら覚える全力疾走ぶりは「綾瀬花日、12歳。」というボイスオーバーが何度も繰り返されることでさらに強調される。12歳である期間はあまりにも短く、小学生にはタイムリミットがあることを花日は知っているのだろう。

くまみこ

都会の高校に通う夢を持ついっぽうで、強烈な田舎コンプレックスにさいなまれている巫女の雨宿まちと、そんな彼女を応援しているが心の底では田舎にずっといてほしいと願うクマのナツ。原作コミックが未完結であることを考えると、いつか別れる日が来ることを暗示しながらも、今はまだ村で暮らし続けるという着地点が無難だろう。だが物語はそんなお約束を飛び越えて、まちに二者択一を迫ることになる。

外に出るか、内に残るかという選択は、アニメファンにとって永遠のテーゼである。第12話「決断」を見て浮かんだのは、2002年放送のアニメ「アベノ橋魔法☆商店街」だ。再開発を控えた大阪の下町・アベノ橋を舞台に、町に残りたい少年サッシと外に出ようとする少女アルミの物語は、不思議と「くまみこ」に重なる部分が多い。どちらも笑顔で締められているものの、さまざまな余韻を残す2つの作品を見比べてほしい。

鬼斬

私がまだ学生だったころ、飲み会でアニメーターの先輩から原画の束を渡されたことがある。生原画を見るのが初めてだった私は、指に粉が付くほど濃い鉛筆で描かれた線の1本1本をじっくり眺め、その絵を目に焼き付けようとした。すると先輩は「そんなんじゃダメだよ」と原画をひったくり、「原画っていうのは、こうするもんなんだ!」と軽やかな手つきでめくりはじめた。先輩の手でパラパラと世界が動き出したのを見て、原画はめくらなければならないことを私は知ったのだった。

「鬼斬」第12話「気焔万丈」は、巨大ロボット・弁慶が活躍するエピソードだ。弁慶はパイロットが描いた原画を動力源とする人智を超えたマシーンである。原画をめくることで華麗なアクションを繰り出す弁慶の姿にあのときの先輩が重なって見えた。

(文/高橋克則)