アニメファンの飲み会というのは得てして、大喜利というか連想ゲーム的なものになりがちだ。「○○には××なシーンが出てくるよな」と誰かがひとこと言えば、ほかの誰かが「××なシーンといえば△△を忘れちゃいけない」と返してくる。アニメとアニメはそんなふうに見えない糸で繋がれている。キーワードを手がかりに、「見るべきアニメ」をたどっていこう。
なんでも昨今はゾンビブームらしい。
その起源はどこからなのかをたどってみると、ひとつはゲーム「バイオハザード」(とその実写映画)にまでさかのぼれるようだ。さらに数年前にアメリカのドラマでゾンビものが登場したことも大きい影響があったようだ。いずれにせよ、そんな世界的潮流の中、日本のマンガ・ラノベ・アニメにもゾンビ(的な存在)をよく見かけるようになった。
現在放送中の「甲鉄城のカバネリ」も、ジャンル分けするなら「ゾンビもの」に加えることができる1本だ。
「甲鉄城のカバネリ」の世界では、「カバネ」と呼ばれる存在が人類を圧倒している。極東の島国・日ノ本では、カバネから身を守るため人々は砦を築き、その中で暮らしていた。砦と砦は、駿城(はやじろ)と呼ばれる装甲蒸気機関車が繋ぎ、砦は「駅」と呼ばれている。
カバネの特徴は、噛んだ相手をウイルス感染させ増殖していくところ。そして、心臓を貫かれない限りは動き続ける。
この「増殖」と「重要部分を損壊させると行動停止になる」というルールは、ジョージ・A・ロメロの映画「ナイト・オブ・ザ・リビングデッド」の中でルール化した設定で、このルールを踏襲・アレンジしているゾンビ像を俗に“ロメロゾンビ”と呼ぶ。カバネは、このロメロゾンビの亜種といえる。
「カバネリ」の特徴は、こうしたゾンビものが人間対ゾンビの構図を背景にした「サバイバルもの」であることを踏まえつつ、それをちょっとずらしているところだ。そこでポイントになるのが「カバネリ」という存在だ。
カバネリは、カバネのウイルスに侵されたものの、脳の侵食には至らなかった存在。そのためカバネリは、カバネの力と人の心を併せ持つことになった。カバネリとなった主人公・生駒は駿城「甲鉄城」に乗り込んで、追ってくるカバネを退けるために戦うことになる。
カバネリは、人を守ろうとすればするほど、みずからのカバネの力を駆使せざるを得ない存在。つまりそこに葛藤が生まれる。生駒の存在自体が孕んだ葛藤がシリーズの中でどのように展開されるか、そこが「カバネリ」の注目点といえる。
ちなみに「甲鉄城のカバネリ」監督の荒木哲郎は正統派ゾンビマンガ「学園黙示録 HIGHSCHOOL OF THE DEAD」のアニメ化も手がけている。また「甲鉄城のカバネリ」を制作するWIT STUDIOは屍者を労働者として活用する世界を描いた「屍者の帝国」(原作は伊藤計劃・円城塔の小説)をアニメ化しているので、両者が組んだオリジナル企画「カバネリ」がゾンビアニメであるというのも至極当然の結果のように思える。
もうひとつ、ロメロゾンビを継承しているアニメを挙げるとするなら「がっこうぐらし!」ははずせないだろう。
こちらはある日、突如“かれら”が登場し、学校で籠城生活をせざるを得なくなった女子高生たちの物語。“かれら”はやはりロメロゾンビのルールにのっとって描かれている。ロメロ監督が、ショッピングモールを重要な舞台として選んだのに対し、本作は学校を舞台に選んでいるあたりが実に巧みなローカリゼーションというかオタク化(オタカリゼーション?)の技を見る想いがする。放送開始前はわざと「ゆるふわ日常系」のふりをしたプロモーションを展開していたのも、これもまたオタカリゼーションの産物のように思う。
いっぽう、ロメロゾンビをパロディにしてしまったのが「スペース☆ダンディ」の第4話「死んでも死にきれない時もあるじゃんよ」。こちらは主人公ダンディを筆頭とするBBP(バカ・ボンクラ・ポンコツ)トリオが、ある理由で感染し、ゾンビになってしまう展開。特にBパートになってからの、まさかのゾンビ日常もの展開はかなりおかしい。作中で流れた映画のクレジットにロメロ監督の名前がわざわざ映し出されたことからも、スタッフのパロディに込めた一種のリスペクトが伝わってくる。
では、アニメの中にはロメロゾンビばっかりなのかといえば、そうでもない。
たとえば同名のライトノベルをアニメ化した「これはゾンビですか」は主人公・相川歩がネクロマンサーの少女ユーによって蘇らせられたゾンビ。日差しには弱いが、感染・増殖はない。もっとも歩は、魔法の世界から来たというハルナから魔装少女(男女問わず魔法少女の恰好で魔法を使う存在)に任命されてしまうので、ゾンビものである以上に、魔法少女ものっぽいのだけれど。
このほかゾンビ好きな少年がゾンビになった少女と同居するマンガ「さんかれあ」もアニメ化されている。これもロメロゾンビとは違う、日本なり?のゾンビものであるといえる。
世界的ブームを横に見つつ、ゾンビアニメの数がこれぐらい揃ってくると、数年後には「ロボットアニメ」「魔女っ子」みたいなひとつのジャンルとして定着してしまうんじゃないだろうか。
(文/藤津亮太)