アニメ業界ウォッチング第20回:「キャラ原案」から「キャラデザイン」を起こす仕事とは? アニメーター&キャラクターデザイナー、高橋裕一インタビュー!

アニメのキャラクターデザインといえば、「自分の個性を全開にして、好みのキャラを自由に描く」夢のような仕事をイメージするかもしれない。

だが、アニメーターの高橋裕一さんは「マクロスF」(2008年)で、江端里沙さんのサポート的立場からサブキャラクターをデザイン、「つり球」(2012年)では宇木敦哉さん、「ガッチャマン クラウズ」(2013年)と「ガッチャマン クラウズ インサイト」(2015年)ではキナコさんのキャラクター原案を元に、アニメ作画用のキャラ表(キャラ設定)を描き起こした。

個性の強いキャラ原案を、大勢のアニメーターが描きやすくするためには、堅実な画力と計算力が問われてくる。作画監督として長いキャリアを持つ高橋裕一さんに、キャラクターデザインの秘訣をうかがった。

参考書の絵を、丸一冊、模写した高校時代

──アニメーターになろうとした動機は、何だったのでしょうか?

 

高橋 小学校~中学時代、ちょうど80年代のハイクオリティなアニメ映画と出会ったんです。いちばんの契機になった作品は、小学5年生のころにテレビで見た「王立宇宙軍 オネアミスの翼」(1987年)。絵が緻密であること、いろいろな画角を使いながら、1枚1枚、人間が手で描いていることに驚きました。とにかく映像に圧倒されて、その頃からアニメーションを意識しはじめました。

 

──すると、中学時代には絵を練習したり……。

 

高橋 はい、練習しました。テレビ画面にサランラップを貼って、絵をトレースしたりして(笑)。高校に入ってからは、参考書の絵を模写しはじめました。

 

──参考書というと?

 

高橋 ジャック・ハムの「人体のデッサン技法」、湖川友謙さんの「アニメーション作画法」です。丸一冊、全ページ、何度も何度も模写しました。大学ノートで200冊分ぐらい、描きました。地元が新潟だったので、放送しているアニメも少ないですし、何か好きなアニメを毎週、見ていたわけではないんです。本屋に行って、「アニメーション」と付いている本を買って、まずは人体を描けるようにならなければ……と、ひたすら練習していました。

 

──高校を出るころには、そろそろ進路を決めないといけませんね。

 

高橋 はい、上京して千代田工科芸術専門学校に通ったのち、J.C.STAFFに入社しました。当時のJ.C.はゆるくて、面接の待ち時間に落書きさせて、その落書きを見て「どれだけ絵が描けるか」を見るんです。新人なので動画として働いていたんですけど、ひょんなことから「彼氏彼女の事情」(1998年)の絵コンテと作画監督を、少しだけ担当することになりました。

 

──動画から、いきなりコンテと作監を任されるのもイレギュラーですね。

 

高橋 だけど、作監をすることによって動画の大変さがわかるし、作監という仕事の大変さもわかります。作画以降の編集などの工程、演出家とのやりとり、アニメ制作のワークフローを理解できた……という意味では、とてもいい体験でした。それと、「この期間の間に動画を上げてください」という仕事のしかたではなく、とにかく次から次へと原画を描かなければいけないので、スピード力がつきました。J.C.STAFFには6年間、在籍しましたが、描くスピードが養われましたね。今でも、作監をやるたび、自分でも100カットほど原画を描きます。自分で描いた原画は修正する必要がないので、効率がいいんです。

同じキャラを全角度から描けるよう、勉強する

高橋 J.C.STAFFを出てからは、フリーランスとしてGONZOやBONESの仕事を請けていました。そのひとつが「創聖のアクエリオン」(2005年)でした。

 

──「アクエリオン」では、第19話「けがれなき悪戯」の作画監督をなさってますね。うつのみや理さんが絵コンテから作監まで担当した、個性的な作画のエピソードでした。

 

高橋 僕はBパートの作監でしたが、レイアウトもうつのみやさんに見せて、指示を受けていました。「作画の味を生かしたい」といううつのみやさんの仕事を間近に見られて、すごく勉強になりました。「ノエイン もうひとりの君へ」(2005年)にも、作監・作画で参加しました。「ノエイン」は、そうそうたる作監の方たちが、いい意味で競い合っていて、その環境で仕事ができて楽しかったです。

 

──その後、「マクロスF」(2008年)という娯楽大作で、はじめてキャラクターデザインを手がけますね。

 

高橋 メインキャラは江端里沙さんで、僕は裏方のキャラを描けばよかったので、それほど、肩ひじを張らずにデザインできました。

 

──やはり江端さんの絵に合わせて、デザインしたのでしょうか?

 

高橋 はい、合わせる努力はしました。とりあえず、ランカやシェリルたち女性キャラの絵を、輪郭だけ描けるように勉強しました。江端さんのキャラを360度、ぐるりと回して動かせるようになるまで描きました。そこまで輪郭を把握してから、自分の担当キャラのデザインに入りました。

 

──「つり球」(2012年)は、宇木敦哉さんのキャラ原案がありますよね。その前に、やはり宇木さんのキャラ原案で、「積乱雲グラフィティ」(2011年)というPVでキャラデと監督をされていますが?

 

高橋 「積乱雲グラフィティ」を作曲したryoさんが、PVの制作会社としてエイトビットを指名されたんです。エイトビットの社長の葛西励さんから「この絵柄なら、高橋さんが向いてるんじゃない?」と声をかけられたのが、キッカケですね。ソニー・ミュージックエンタテインメントでジャケットイラストを見せていただいたら、「これは、『センコロール』を監督した宇木さんの絵だ」と気づきまして、それから宇木さんの絵のラーニングを始めました。「三白眼である」「鼻と口が離れている」「笑うと独特の顔になる」といった、ひと目でわかる特徴を取り入れて、アニメ用のキャラクターデザインを起こしました。

 

──宇木さんと打ち合わせはしたんですか?

 

高橋 いえ、まったくないです。「積乱雲グラフィティ」では1人、オリジナルの女の子を出したのですが、それについてもソニー・ミュージックの方を通して話してもらいました。