【実写化映画、大検証!】第3回「シティーハンター THE MOVIE 史上最香のミッション」──ハンパない原作理解度と愛情が結実! フランスで誕生した、これぞ実写化映画の理想形!

空前のアニメブームを迎えている令和・ニッポン。実写映画の世界でも、アニメ原作、漫画原作モノが以前にもまして存在感を増しつつある。

そのいっぽうで、アニメ原作、漫画原作モノ実写映画というと、「あ~、実写化ね……」というある種の残念な印象を抱いている方も多いのではないだろうか。

しかし! 本当にアニメ、漫画を原作とする実写映画はガッカリなものばかりなのだろうか!? 周りの意見に流されて、ろくに本編を観ないままイメージだけでネタにしてないのかい!?

ということで、過去に物議を醸したアニメや、漫画原作モノ実写映画を再評価してみたい。

 

第3回 シティーハンター THE MOVIE 史上最香のミッション

 

あとのない者が新宿の掲示板に「XYZ」と書き込むと、あの男が現れて助けてくれる。1985年に連載をスタートし、黄金時代の「週刊少年ジャンプ」(集英社)を支えた名作「シティーハンター」が、2018年に実写映画「シティーハンター THE MOVIE 史上最香のミッション」となって帰ってきた!

 

ガンアクションあり、人間ドラマあり、お色気ありの「シティーハンター」は実写映画に持ってこいの題材。しかしながら、主人公であるスイーパー(始末屋)・冴羽獠(さえばりょう)のカッコよさとコミカルさを表現し、激しいアクションもこなせる人材はそういるわけではない。

 

1993年の実写版「シティーハンター」では、あのジャッキー・チェンさんが獠を演じている。風貌といいアクションのキレといい結構なハマり役ではあるが、ジャッキー属性に寄ったのかカンフーアクションが多め、かなりコミカルな獠像が提示された。

時事ネタがちょいちょい入ったこの1993年版は、力の入った「ストリートファイターII」パロディでも知られている。敵と徒手空拳で戦う最中、ゲーム機に突っ込んで感電した獠が、敵とともに「ストリートファイターII」のキャラクターになって戦うのだ。ゲームのボイスやBGMがそのまま使われているのに加え、同作のアクションが生身で表現されているのが面白い。

敵はケン。そして獠はエドモンド本田にガイル、春麗と次々に変身するが、これは荒唐無稽なアレンジではなく、当時流通していた海賊版に存在した特殊な仕様であり、ある意味で原作通り。ケンの竜巻旋風脚をリアルで出すさまもカッコいい。さすがに連続回転するさまは特撮で処理されているものの、ケンの竜巻旋風脚なので獠に多段ヒットするあたりも芸が細かい。

いっぽう春麗に変身した獠は、空中で縦回転しながらの開脚カカト落としを仕掛けるが、このモーション自体は「ストリートファイターZERO」の旋円蹴、高空に垂直上昇して技を出すのが「ストリートファイターIII 3rd STRIKE」の天星乱華を思わせる。また、獠ガイルは突如現れたダルシムとコンビを組んでケンに立ち向かうが、このあたりは「ZERO」の2対1モード「ドラマチックバトル」のよう。「ZERO」は1995年、「3rd Strike」は1999年の発売なので、映画を見た人は2~6年ほど早く新要素を楽しめたとも言えるのかもしれない。

 

寄り道はさておき、2代目の実写獠役に名乗りを上げたのは、フランスの俳優兼コメディアン兼映画監督であるフィリップ・ラショーさん。1990年代にフランスで放映されたアニメ版「シティーハンター」を見て育った氏は、漫画家と映画監督という2つの夢のうち後者を選ぶ。そして「真夜中のパリでヒャッハー!」などのコメディ映画を撮影して実績を積みつつ、18ヶ月をかけて本作の脚本を書きあげ、原作者の北条司さんからOKをもらい、主演・脚本・監督を兼ねることになったのだという。

特に「シティーハンター」愛にあふれているのが、本作のキーとなる「キューピッドの香水」のアイデアだろう。この香水は、嗅いだものを異性・同性問わず虜にする。加えて、虜にされた者は嘘をつけなくなってしまう。

本作に置いて獠はこの香水を嗅いでしまい、あろうことか香水の回収を依頼してきたオッサンに惚れてしまうのだ。本作のキャッチコピーには「冴羽 獠、最大の危機(笑)」とあるが、なるほど、これは獠にとってはかなりの危機だろう。

 

かようにコミカル要素が目立ちがちな冴羽獠だが、いっぽうで凄惨な過去を持つ人物でもある。

幼少時に飛行機事故に遭い、反政府ゲリラに育てられて類い希なる戦闘能力を身に付け、流れ流れてアメリカでスイーパーになり、日本に渡ってきた。アメリカでは死に場所を求めるかのごとく戦っていたが、日本に来てやっとそうした生き方から脱却。裏世界No.1のスイーパーかつ、お調子者で女好きな「新宿の種馬」という、みなが知る冴羽獠になったのだ。

そんな獠の二面性が現れているのが、相棒・香に対するスタンスである。獠は親友・牧村の義妹である香を何より大切に思っているのだが、その思いを素直に表現することはない。憎まれ口を叩くさまは、本心を隠しているかのようでもある。

そこに「キューピッドの香水」を嗅いでしまい、本心しかいえない身体になってしまうのである。香への思いを秘めておきたい獠にとって、これまた最大の危機と言える。キャラクターの「その人らしさ」を表現しつつ、危機に陥れるのは物語を盛りあげる基本だ。「シティーハンター」のアクション面に「のみ」注目するのであれば、とにかく強い敵を出せばいいのだろうが、それではバトルものとしての側面が強くなりすぎてしまう。No.1スイーパーである獠と、彼の強さを熟知するファンを揺さぶるのに、香との関係性を持ってくるあたりは、原作への愛と高い理解度がなせる技だ。

 

漫画やアニメの実写化では、キャラクター性が異なってくる「解釈違い」がよく発生するが、本作の獠は青いジャケットに赤いTシャツ+腕まくりという「冴羽獠」のアイコンを押さえているのに加え、立ち振る舞いやアクションもまた、実に獠らしい。

普段は美女に鼻の下を伸ばすものの、ひとたび本気になれば、悪党どもがどれだけ群れをなしてもかなわない。強いけれどコミカル、コミカルだけれど笑いに寄りすぎない。このバランスが絶妙で、実に「シティーハンター」しているのだ。

本作の獠も原作同様に美女にちょっかいを出しては失敗するのだが、ラショーさんが持つ伊達男っぽさがうまく作用しており、イヤミさや下品さが薄い。冴羽獠に対するひとつの解釈として全然“アリ”なほどに自然である。

日系人である原作の獠と、フランス人であるラショーさんでは顔の雰囲気がどうしても違ってくるのだが、ここまでキャラクター造形と舞台装置を作りこんでくれれば、そんな違和感も数分で消えるだろう。

 

実写版「冴羽獠」として特に面白いのが、「キューピッドの香水」でオッサンに心惹かれる際の演技だ。獠はオッサンを飲みに誘うものの「今、女性といるから」と断られてしまい、ショックを受ける。オッサンと結婚式をし、仲良く遊びに行き……と夢想するなか、うわの空で歩き回り、やがて女性モデルたちが着替えるファッションショーの控え室に迷い込むのだが、傷心のあまりそれに気づきもしないのだ。

コメディの中には、本人が真面目であるほどにユーモラスに感じられるシチュエーションがある。このシーンはまさにそれで、女好きである獠がオッサンにフラれて大ダメージを受けるというギャップは、ラショーさんが真面目に熱演しているからこそ際立つ。コメディアンとしての面目躍如であり、まさに「シティーハンター」を映画化するために生まれてきた人物と言っても過言ではないだろう。

 

また、香(エロディ・フォンタン)にしろ、獠の天敵・海坊主(カメル・ゴンフー)にしろ、牧村(ラファエル・ペルソナ)にしろ、キャスト陣はいずれも雰囲気抜群。特に海坊主については外見の再現度が非常に高く、「海坊主って実在したんだ」と感嘆することしきりである。

香といえば、獠を懲らしめる時に使う100 tハンマーがトレードマークだが、本作にもちゃんと登場する。

とはいえ、100 tハンマーは扱いが難しい小道具でもある。実写でそのまま出してしまうと、映画のリアリティレベルが崩壊するからだ(100 tもある鈍器を振り回せる腕力があれば、銃などなくても無敵だろう)。本作では現実世界ではなく想像の中での登場。バックに流れる効果線やアングルと相まって、これ以上ない100 tハンマーとなっている。

 

そして、アクションシーンも素晴らしい。

物語後半では、香が敵にさらわれて人質にされてしまう。獠は敵の本拠へ乗り込み、トラップや不意討ちでひとりずつ倒していくのだが、終始無言であるあたりに獠の怒りの深さと、本気を出したときの強さが感じられて痺れる。

そして獠は香を助け出し、2人で多数の敵を相手どっての大立ち回りを演じる。香も銃を手にして戦うが、不慣れなためかうまく扱えないのを、獠がつかず離れずサポートするのだ。激しい銃撃戦でありながら、香がドレスを着ているのも相まってダンスを踊っているかのようにも見え、近づきすぎず決して離れないという2人の間合いがいかにも「シティーハンター」的。

2人で揃って遮蔽物へ飛び込む姿も「シティーハンター」っぽく、原作理解度の高さがうかがえる(獠は香に銃を使わせたがらないという点についても、一応フォローが入っているので安心)。吹き替えは獠が山寺宏一さん、香が沢城みゆきさん。特に獠の山寺さんがハマっていて、やはり獠の別解釈として違和感なく観ることができるだろう。

 

漫画やアニメが実写化される際、解釈違いによって悲劇が起こることも少なくない。そうした中でも本作は、ラショーさんの才能と原作愛がうまく結びつき、違和感の少ない実写化を成し遂げている。ファンにとっても、送り手にとっても幸せな事例であり、実写化が目指すべき到達点のひとつと言っても過言ではないだろう。

本作が日本陣による映画化ではなくフランス人による映画化でことも、ある意味エポック的であり、今後はこうした愛ある国際的映画化も増えていくかもしれない。

そして、何よりも重要なのは、ラショーさんを子どもの頃から引きつける「シティーハンター」の魅力である。シリーズは今年で37周年を迎えるが、今後も実写化を含めた展開が続くことを望みたいところだ。

 

(文/箭本進一)