日本最大級のアニメソングの祭典「Animelo Summer Live 2018 “OK!”」(アニサマ2018)が2018年8月24日~26日、さいたまスーパーアリーナにて開催された。
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⇒【プレイ・バック・アニサマ2018 その2】声優だから歌える歌、アニソンアーティストだから歌える歌――「Animelo Summer Live 2018 “OK!”」2日目レポート
今回レポートするのは8月26日に開催された3日目。3日目には「アイドルマスター ミリオンライブ!」よりミリオンスターズ、i☆Ris、蒼井翔太さん、上坂すみれさん、オーイシマサヨシさん、 OxT、小倉唯さん、ORESAMA、ZAQさん、THE MONSTERS、妹S、JAM Project、鈴木このみさん、鈴木みのりさん、東山奈央さん、早見沙織さん、ヘルシェイク矢野、ミルキィホームズ、YURiKAさんが出演した。
ライブオープニングは、ミルキィホームズ×i☆Ris×上坂すみれ×東山奈央のコラボによる「ANISAM A GO GO」(原曲はミルキィホームズの「ミルキィ A GO GO」)でスタート。i☆Risはなんとこのコラボのためだけに、ミルキィと色違いの専用の探偵服を特注していたから驚きだ。ラストアニサマを明るくハッピーに笑い飛ばしてスタートするのは、本当にミルキィホームズらしい。12人の迷探偵は「さいたま一の名探偵・okホームズです!!」とスペシャルな名乗りを上げた。
どのような形でステージに登るのか、注目を集めていたのがTVアニメ「ポピテピピック」の登場キャラクター・ヘルシェイク矢野だ。そんな矢野がアニサマというステージで選んだ表現方法は、なんと(AC部による)「紙芝居」。27,000人のオーディエンスが奏でる万雷のヘルシェイクコールが鳴り響く中、さいたまスーパーフェニックス……もとい、さいたまスーパーアリーナを舞台にたったひとりで戦い抜くアーティスト・ヘルシェイク矢野の孤独で破滅的な生き様が観衆を酔わせた。ヘールシェイク! ヘールシェイク!
上坂すみれさんは「ポピテピピック」のオープニングテーマ「POP TEAM EPIC」を披露。ゾンビめいた動きを見せる警備員ダンサーたちを、上坂さんは冷静に次々と射殺していく。だが多勢に無勢、ついに上坂さんが傷つき倒れた時、スクリーンのノイズの中に一瞬よぎったのは蒼井翔太さんのうるわしい姿だった。因果の彼方で何があったのかは定かではないが、再び立ち上がった上坂さんは最後まで「POP TEAM EPIC」を歌いきったのだった。
アニサマ2日目にTrySailとして出演した麻倉ももさん、雨宮天さん、夏川椎菜さんがソロで立て続けにサプライズ登場したり、i☆Risがキュウキョクの(9曲の)プリパラメドレーを披露したりと、アニサマならではのメジャー感と遊び心にあふれたステージが続く。最上級のパフォーマンスでさいたまスーパーアリーナの空気を支配したOxT(オクト)や、「ポピテピピック」が契機なのか、前回以上に会場からの親しみの空気がぐっと増した蒼井翔太さんなども印象に残った。だが、最終日最大の山場となったのは、やはり大トリ、JAM Projectのアニサマへの帰還だろう。
JAM Projectといえば、メンバーひとりひとりがトップクラスのアニソンシンガーとしての実力と実績を持った生きるレジェンドであり、アニサマにも初回から参加してきたアニメソング界の象徴的存在だ。リーダーの影山ヒロノブさんは、アニサマの「長老」と呼ばれ、アーティストからも、ファンからも慕われてきた。そんなJAMがアニサマに最後に出演したのは2014年のこと。それ以降のアニサマは、JAMという偉大な存在がいなくても、日本最大級のアニソンイベントの名に恥じないステージを提供し、盛り上げるために走り続けてきたように思う。そんな、さらに大きく成長した場になったアニサマに、ふたたびJAM Projectが帰ってくる。アニソンを愛するファンならゾクゾクするほど楽しみなシチュエーションだ。
だがそんな状況でも現状維持をよしとしないのがJAMというかっこいいオヤジたちだ。彼らは3日目序盤、大会場限定の新人バンド「THE MONSTERS」としてステージに登場すると、「ラブライブ!」の「Snow halation」をカバー。こんなに分厚くて熱い「スノハレ」、見たことない! JAM Projectとしては久しぶりにアニサマ出演ということもあり、ラストは「VICTORY」「GONG」「鋼のWarriors」そして「SKILL」という一切出し惜しみなしの流れで、最高に熱い時間だった。この4年間にアニソンが好きになった若いファンにこそ、アニソンってこんなにすごいんだと感じてほしい、そんなステージだった。
ライブの締めはもちろん、参加全アーティストによる「Stand by…MUSIC!!!」。長老たちが4年ぶりにふらっと帰ってこれるアニサマという場の厚みと暖かさ、そして4年ぶりでなお全盛期、最高のコンディションに仕上げてくるJAM Projectの凄みを感じた最終日だった。
個人的注目ポイントにフォーカスして3日目を振り返り!
ここからは個人的な注目ポイントをダイジェストで紹介していく。3日目のステージで特筆したいのは「アイドルマスター ミリオンライブ! ミリオンスターズ」が放っていた圧倒的なメジャー感、存在感だった。「アイドルマスター」といえばこの10年のアニサマの常連であり、元祖765プロ、「アイドルマスター シンデレラガールズ」「アイドルマスター ミリオンライブ!」「アイドルマスター SideM」といった姉妹兄弟たちが真夏のステージを彩ってきた。
その歴史の中で去年の「ミリオンライブ!」は、高橋未奈美さんの「dear…」や愛美さんの「プラリネ」、そして物語として特別な意味と想いを持つ「アイル」などの誰が見たってすごい、胸を張ってこれが「アイドルマスター ミリオンライブ!」です!と言えるようなパフォーマンスの断片をステージに詰めこんでいた。この先が見たければ「ミリオンライブ!」の会場に来いと言わんばかりのステージだった。
こうして迎えた今年のステージは、テーマソングの「Brand New Theater!」、さらに3属性に分かれて「Princess Be Ambitious!!」「Angelic Parade♪」「FairyTaleじゃいられない」の各属性曲。そしてラストは新たなるテーマソング「UNION!!」で締めるという、一切変化球を入れない王道の配球だ。思えば、2日目に出演した「アイドルマスター SideM」も、各ユニットを代表して集まってきたメンバーが、テーマソングの直球をど真ん中に投げ込むようなセットリストだった。知ってもらうためのステージから、客席の期待に応えるステージへの変化だろうか。
ミリオンスターズがさらに輝いて見えたのは、当然第一に彼女たち自身の努力と魅力が大きいのだが、アニサマ3日間のトータルの構成が、彼女たちをさらに輝かせて見せた要素もある気がする。2日目レポートに「声優アーティスト」という存在の多面性について書いたが、演じる「アイドル」をまとってステージに立つ時間は、声優アーティストにとってもっとも特殊で、もっとも輝く瞬間のひとつだと思う。そのうえで見のがせないのが、今や彼女たちはひとりひとりがアニサマという夢の舞台への扉をこじあけるだけの、力量と経験を備えつつあることだ。
今年は、春日未来役の山崎はるかさんが初めてソロアーティストとしてアニサマのステージに立った。「ミリオンライブ!」が歴史を重ねる間に、個々の声優も大きく成長するのは必然ではあるが、愛美さん、田所あずささん、伊藤美来さんのような「アニサマのステージの住人」たちが同じフレームの中に笑顔でドン!と一緒に登場すると、やっぱりなんだこのコンテンツ!?という驚きがある。麻倉ももさん、雨宮天さん、夏川椎菜さんがソロアーティストとしてサプライズ出演した後半の流れも、その印象を後押ししていたのではないか。雨宮さんの紅白歌合戦と見紛うばかりの超ロングドレスや、キッズダンサーを引き連れた夏川さんの弾けるようなパフォーマンス。そうした個人の魅力的な姿を見ていればこそ、それだけすごい人たちが揃いの衣装で、ひとつの想いを持ってアイドルとしてステージを作る姿が眩しく見えるのも当然だと思う。
この大舞台でMachicoさんと夏川さんの間で笑顔で歌っていた香里有佐さん、そして田所さんや雨宮さんといった表現力全振りのFairy属性メンバーの中で遜色のない魅力を放っていた南早紀さんの2人は、初ステージからわずか1年の新人だ。初めてアニサマのステージに立った郁原ゆうさんは「めちゃめちゃきれいですね、楽しいです!」と幸せそうな笑顔を見せた。39人の中の誰を呼んでも、これがうちのアイドルです!と胸を張れるのもまた、今の「ミリオンライブ!」の強さだと思う。アニサマでは初披露の楽曲「UNION!!」で力強い「ミリオン!」「ユニオン!」の掛け合いを大会場に響かせた。その幸せで重厚な空間に、彼女たちがまた新たなる翼を手に入れたことを実感した。
今回のアニサマはWake Up, Girls!とミルキィホームズという、アニメソングとアニサマの世界で輝いてきた2つの声優ユニットが経験した最後のアニサマとして記憶されると思う。その2018年のアニサマにおいて、閃光のようなパフォーマンスを見せたのが「残る側」であるi☆Risだった。
avexと81プロデュースが主催する第2回「アニソン・ヴォーカルオーディション」の合格者ユニットがWake Up, Girls!であり、その先輩、第1回「アニソン・ヴォーカルオーディション」合格者がi☆Risだった。新人時代のi☆Risはすごいパフォーマンスを見せているのになかなかブレイクに至らないのが歯がゆいイメージだったが、彼女たちの大きな転機になったのが自身が声優としても出演する「プリパラ」だった。
「プリパラ」を冠するテレビシリーズが終わり、今年4月からは「プリパラ」の流れをくむ新シリーズ「キラッとプリ☆チャン」がスタートし世代交代。i☆Risもまた、新たな道の入口に立っている時期だと思う。その節目の時期だからこそ、出世作になった作品の楽曲の最高のパフォーマンスを、最高の舞台に残す。ステージの6人には、その気迫がみなぎっているように見えた。「9曲の究極のメドレー」。ただでさえ運動量の多い彼女たちの楽曲を、9曲連続でやりきることがたやすい挑戦であるはずがない。声優ユニットが決して永続するものではないことがクローズアップされた季節だからこそ印象に残った、炎のようなパフォーマンスだった。
アニサマの常連出演者の声優ユニットといえば、ヨコハマ一の名探偵ミルキィホームズだ。2013年頃は、初出演からのアニサマ皆勤賞がミルキィの定番肩書きだった気がする。アニサマ2010、2011、2012、2013、2015、2017、そして「Animelo Summer Live 2018 “OK!”」。計7回のアニサマ出演は、おそらく声優ユニットとしては今後も破られることのない大記録だろう。初期は無名のユニットだった彼女たちに、ユニットイメージカラーの緑一面のサイリウムで応えた当時のファンたちのやさしさは、その後のアニサマというイベントの空気やイメージにも大きく関わっていると思う。
おなじみのテーマ、おなじみの探偵服で登場したミルキィがラストアニサマで歌ったのは、「正解はひとつ!じゃない!!」「雨上がりのミライ」そして「聞こえなくてもありがとう」。近年のミルキィホームズのアニサマ出演を思い出すと、新しいコスチューム、最新の楽曲で「今のミルキィホームズはこんなに最強なんだぜ!」とアピールしていたイメージが強い。今回のステージでは原点の探偵服で、原点の楽曲を歌う姿に、最後のアニサマであることを実感せずにはいられない。
アニサマという、ある意味ニュートラルな場があってよかったなと思ったのは、今回のミルキィがちょっと「浪花節」の世界だったこと。歌う彼女たちの背後には、歴代のアニサマの映像をふんだんに使って彼女たちの足跡を辿る映像が流されていた。完全に会場とメンバーを泣かせにきた感じだが、ミルキィホームズはメンバーもスタッフも、最後まで笑顔で楽しく走り抜ける、走り抜けられてしまう挟持(きょうじ)と強さがあるチーム。だからこそ解散まで少し時間があるこの時期に、なるべく多くのファンにまっすぐに正直な想いを届ける機会があったのは、とてもいいことだと思う。
デビューオーディションの半年後、CDデビューから2か月後にアニサマのステージに立った佐々木未来さんは、「アニサマが背中を押してくれたから、私たちはここまで走ってこれました。最後の最後まで、走り続けます!」と想いを込めて語った。
「アニサマは大きなひとつの生き物のようで、新たなユニットも生まれていって、その一部になれて本当によかったと思います」と語った徳井青空さんは、アニサマの各エリアのファンやスタッフに向けて、「ありがとうございました!!」と笑顔で何度も繰り返した。
個人や別作品も含めればアニサマ皆勤賞を続けている三森すずこさんは「はじめての時は本当に緊張していて、回を重ねるごとにこの美しい景色を楽しむ余裕ができました。私たちを成長させてくれたこのステージに、感謝しています!」と、会場の景色を愛しそうに見つめながら語った。
橘田いずみさんは、8年前の初めてのアニサマを「(お客さんに)お願いトイレ行かないでと思ってた」と彼女らしく振り返ってから、「今日は、ミルキィホームズ楽しかったねって思ってもらいたいとだけ思って、4人で手をつないで出てこれました」と晴れやかに語っていた。
歌い終え、ステージを去る4人の言葉は、
「アニサマ、最高の夏をありがとう! さよなら!」。
その言葉は、ズキリとした鈍い痛みを残したけれど。27,000人に惜しまれながら、鮮やかな別れの言葉とともにステージを降りる。それは、8年間をアニサマとともに駆けたミルキィホームズにしか体験できない、特別な瞬間だったのではないかと思う。
【セットリスト】
M01:ANISAM A GO GO(ミルキィホームズ×i☆Ris×上坂すみれ×東山奈央)
M02:うまるん体操(妹S)
M03:かくしん的☆めたまるふぉ~ぜっ!(妹S)
M04:ホトハシル(ORESAMA)
M05:流星ダンスフロア(ORESAMA)
M06:Snow halation(THE MONSTERS)
M07:Hell Yeah!!(ヘルシェイク矢野)
M08:POP TEAM EPIC(上坂すみれ)
M09:鏡面の波(YURiKA)
M10:Shiny Ray~MIND CONDUCTOR(YURiKA)
M11:オトモダチフィルム(オーイシマサヨシ)
M12:Jewelry(早見沙織)
M13:新しい朝(早見沙織)
M14:True Destiny(東山奈央)
M15:灯火のまにまに(東山奈央)
M16:FEELING AROUND(鈴木みのり)
M17:リワインド(鈴木みのり)
M18:Catch You Catch Me(早見沙織×鈴木みのり)
M19:アルカテイル(鈴木このみ)
M20:歌えばそこに君がいるから(鈴木このみ)
M21:私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い(鈴木このみ)
M22:トクベツいちばん!!(麻倉もも)
M23:誓い(雨宮 天)
M24:フワリ、コロリ、カラン、コロン(夏川椎菜)
M25:Changing point(i☆Ris)
M26:キュウキョクのプリパラメドレーMake it!~ミラクル☆パラダイス~Realize!~ドリームパレード~ブライトファンタジー~Goin’on~Ready Smile!!~Shining Star~Memorial(i☆Ris)
M27:Baby Sweet Berry Love(小倉 唯)
M28:永遠少年(小倉 唯)
M29:零(蒼井翔太)
M30:Eclipse(蒼井翔太)
M31:カーストルーム(ZAQ)
M32:JOURNEY(ZAQ)
M33:シュガーソングとビターステップ(ZAQとOxT)
M34:GO CRY GO(OxT)
M35:Silent Solitude(OxT)
M36:Brand New Theater!(アイドルマスター ミリオンライブ! ミリオンスターズ)
M37:Princess Be Ambitious!!~Angelic Parade♪~FairyTaleじゃいられない(アイドルマスター ミリオンライブ! ミリオンスターズ)
M38:UNION!!(アイドルマスター ミリオンライブ! ミリオンスターズ)
M39:正解はひとつ!じゃない!!(ミルキィホームズ)
M40:雨上がりのミライ~聞こえなくてもありがとう(ミルキィホームズ)
M41:Shining Storm ~烈火の如く~(JAM Project)
M42:THE HERO !! ~怒れる拳に火をつけろ~(JAM Project)
M43:VICTORY~GONG~鋼のWarriors(JAM Project)
M44:SKILL(JAM Project)
M45:Stand by…MUSIC!!!(アニサマ2018出演アーティスト 3rd Day)
(取材・文/中里キリ)